Le Caniette レ・カニエッテ
イタリア Italia / Marche
昔ながらの農家のロッソ・ピチェーノ
工業的ワインが多い大産地ロッソ・ピチェーノでテロワールワインを目指す
白のペコリーノは南イタリアでも有数のポテンシャル
❖砕屑岩と砂質を多く含む❖
1960年代、ラファエル・ヴァニョーニがマルケ州南部、リパトランソーネの農地を購入したのがレ・カニエッテの始まり。その際に購入した建物の名前がレ・カニエッテでした。
『当時は野菜栽培の為の農地で、その一部に葡萄畑もありました。葡萄栽培で儲かる時代ではなかった。葡萄畑は家族のワインを造る為でした』
マルケ州南部、海に近い地域の土壌は肥沃な粘土質。野菜の栽培には適していたが、ワイン用ブドウの栽培には最適とは言えなかったのです。
『この辺りにはワイナリーは皆無でしたが、リパトランソーネの一部は更新世の砕屑岩と砂質を多く含む土壌でミネラル分が豊富で水はけが良く、ワイン造りに最適でした』
リパトランソーネの特殊性に気付いた後継者のジョヴァンニは1990年代に入ると葡萄畑を拡充。良い土壌の畑だけ葡萄畑に切り替えていきます。
『野菜の栽培より、ワインを造る事は魅力的。良い葡萄を育て、良い葡萄を活かして個性的で美味しいワインを造る事は、より芸術的で人を喜ばせる事が出来る』
野菜栽培農家では出来なかったリパトランソーネの土地の表現が可能なワイン造りは過疎化の進む町を活性化していき、ワイン造りは若者の憧れの1つになっていきます。
『今では葡萄畑が16ha、オリーブが2haにまで拡大。その他に自然の森を畑の周辺に残し、生物多様性を維持する事を目指しています』
畑では有機栽培が導入され、除草剤、防虫剤も使用されません。有機農業団体のCCPBに加入し、循環型農業を推進。後世に自然を残す農業を目指します。
『土壌由来のミネラルとPHの低さ。それに海洋性気候の温暖さと適度な降雨量がワインを柔らかくフレッシュに仕上げてくれる。ロッソ・ピチェーノで最も繊細な味わい』
❖仲間と進化する❖
2002年にはジョヴァンニが当主となり、更にワインに注力していき、2007年にはカンティーナを一新。清潔な環境で葡萄、ワインを醸造できる下地が整います。
『昔ながらの古い木製のセラーはコンクリート製の清潔なセラーに変更。大型のセメントタンクと小型のステンレスタンク。熟成用の大樽とバリックを導入』
オアジ・デリ・アンジェリ、ヴァルテル・マットーニ等の若い造り手達と仲が良く、一緒に飲み、ワイン造りも一緒に学んでいて、常に変化し、進化しているのです。
『以前のワインは重過ぎたし、タンニンも乾いていて、飲み頃になるまで何年も待たなくてはいけなかった。今は、抽出を抑え、マセラシオンを短くして素直なワインを目指す』
以前のモレローネはバローロのような骨格とタンニンで10年以上熟成するロッソ・ピチェーノらしからぬワインでしたが、今は素直な果実がフレンドリーでロッソ・ピチェーノらしい味わいに変化。
『醸造の個性が土地の個性に勝ってはいけない。この土地の個性を素直に感じさせる為のシンプルな醸造こそが重要。毎日飲みたくなるワインが理想なのです』
❖短いマセラシオン❖
暑い地域なので白ワインは透明感があり、フレッシュな味わいを目指します。畑で選果し、プレス前に3日間、0度に保たれた冷蔵庫で葡萄を冷やします。
『発酵温度を低くする為に冷蔵庫で休ませ、葡萄の酸度を保ちながら少し成熟させる。同時に葡萄内にいる虫が寒さで逃げ出すので、よりクリーン』
プレスは窒素を使って酸素と触れ合わない状態で行い、葡萄自体が持つ繊細な揮発的な香を失わないようにします。発酵は15度から初めて低温をキープしながら30日間。
『イオ・ソノ・ガイア・ノン・ソノ・ルクレッツィアは「私はガイアよ。ルクレッツィアじゃないわ」を意味します。訪問者の質問に答えた娘のガイアの言葉がワイン名になっています』
各ワインには子供と奥さんの名前が付けられています。長女ルクレッツィア、奥さんのヴェロニカ。ガイアの名前が付いたワインがなく、いつもルクレッツィアと間違えられていたんです。
赤ワインは伝統的にサンジョヴェーゼとモンテプルチャーノのアッサンブラージュ。還元しやすいモンテプルチャーノをサンジョヴェーゼが助け、バランスをとっています。
『リパトランソーネの特徴は柔らかく、フレンドリーな果実。若い内のフレッシュさを楽しんで欲しいのでマセラシオンは6日程度と短くしている』
ロッソ・ピチェーノという工業的ワインが多い広大な産地で協同組合ではなく、農家的な小さな造り手が増え、若者が戻ってくる事を夢見ているのです。
『工場に集められた葡萄で工業的に生産されたロッソ・ピチェーノではなく、土地のワインとしてのロッソ・ピチェーノには溌溂とした果実の美味しさがあるのです』