Naima & David Didon ナイマ・エ・ダヴィド・ディドン
フランス France / Bourgogne
ビオディナミのスペシャリストが独立『理想のワイン』
『モンティーユ』にビオディナミを導入した栽培責任者が『ドミニク・ドゥラン』と出会い、自然醸造を経験。サントネイの外れシャセイ・ル・カンで自然なワイン造りを始めてしまう。
モンティーユ栽培担当
サントネイとリュリーの間に位置する「シャセイ・ル・カン」。村名も名乗れない、ブルゴーニュしか名乗れない人口80人の小さな村がある。
コート・ドールから僅か5分のこの村の葡萄畑は放棄され、森と荒地の方が目立つ。ここで「ナイマ」「ダヴィド」夫妻はワイン造りを開始した。
『コート・ドールの畑は高くて買えるはずがない。必要だったのはアペラシオンではなく、森に囲まれた自然環境と土壌の健全性』
当主は「ダヴィド・ディドン」。現在も「エティエンヌ・ド・モンティーユ」で栽培責任者として働いていて、ビオディナミの導入を推進した人物でもある。
ビオディナミとの出会いは1995年。ローヌのボジョー大学で有機栽培の専門課程を履修した時だった。宗教的な思考は受け入れられず、実践的な方法を模索していった。
アルザスで畜産と野菜の栽培をしながら自然を学び、その後コート・ド・トゥールに移り、ミッシェル・グージョに師事し実際のビオディナミを学んだ。
『モンティーユの畑をビオディナミで活性化する仕事を通して、畑、葡萄樹が本当は何を欲しているのかが解るようになった』
モンティーユでは一切の化学薬品の使用中止、除草剤、防虫剤も使用を中止し、銅と硫黄、そしてプレパラシオンのみで土壌を生き返らせる作業を5年以上担当した。
ドミニク・ドゥランとの出会い
その後、プレパラシオンの調合や熟成を自ら手掛けるようになり、「ドミニク・ドゥラン」と、その弟子の「ジュリアン」と共に研究を開始。
『501調剤を含め、色々な調剤や動物性のものを使わない完全植物性の自家製コンポスト等を手作りし、他の造り手とシェアしていた』
ブルゴーニュの土壌は長く葡萄畑なので疲れきっている。プレパラシオンを使って適切に活性化することで葡萄樹は生命力を取り戻す。
直ぐに、同世代の「ジュリアン」と仲良くなり、ドゥランに通い始め、酸化防止剤に頼らない自然で昔ながらの醸造を体験していく。
『亜硫酸なしでの醸造に興味を持ったのはドミニクの影響。野性酵母と葡萄の力だけで酸化とバクテリアに対応する事が可能だと解った』
この経験が「ダヴィド」を突き動かし、自らのワイン造りを始めることを決意させる。2016年、遂に「ナイマ」と共に自宅のガレージでワイン造りを開始。
シャセイ・ル・カン
彼等が買い取った畑は1947年から1960年の間に植えられたシャルドネ、アリゴテ、ピノ・ノワールが育つ古い畑で放棄され荒廃していた。
『所有者は95歳のジョニエお爺さん。彼は農民の知恵でマッサルセレクションを実践していて、優れたクローンが残されていた』
土壌はジュラ紀の粘土石灰質。森と隣接しているので健康状態が良く、コート・ドールよりも早く最良の状態に回復させることが可能だった。
しかも、南東を向く2haの1枚畑で緩やかな斜度があり、葡萄にとっても人間にとっても理想的な環境。1人で働く事も可能だった。
『フィロキセラ後、荒廃してしまったシャセイ・ル・カンには馬による耕作や全房での伝統的ワイン造りなど、昔の習慣が残っている』
醸造はシャセイの伝統的スタイル。茎まで熟した状態で収穫し、除梗せずにエナメルタンクで区画毎に野生酵母のみで発酵。
『発酵前に少し低温浸漬し香を引き出す。マセラシオンは短め。少しのタンニンで骨格を感じさせる程度が理想』
発酵終了後には垂直式圧搾機を使い手で圧搾。樽熟成は9~12ヶ月。今後は少しずつ伸ばしていく。ノン・フィルター。
『この村の歴史的な畑を再び活性化し、伝統的なワイン造りを通して、この村を守っていくことが自分達、農民の使命だと思っている』
栽培が本職であるだけに醸造設備は最小限。ビオディナミで畑の声を聞き、最良のサポートをすること、最適のタイミングで収穫することが全て。