Klinec クリネッツ
Slovenia /
アカシア、チェリー、桑の樽で熟成『ヴェルドゥッツォ』
ラディコン、ダリオ、ムレチニック等と考えを同じくするが、独自の進化を遂げているアレクス。強烈なタンニンと品種 由来のミネラルやフレッシュさを活かした長期マセラシオンは他のどのワインとも似ていない。
不遇な時代を超えて
フリウリのゴリッツィアから10km。国境からは900m の 位置にある「クリネッツ」。この地域は世界大戦中にイ タリア、ドイツ、クロアチア、ハンガリーに順次占領され、その度に農地や生活は難しい局面を迎えた。 第 2 次世界大戦前、「クリネッツ」はこの地域で最も 有名なワイナリーでウディネやコルモンスのレストラン で高く売られていた。
『第 2 次世界大戦後、ユーゴスラビアの統治下に置 かれ、一変。ワインの販売は禁じられ、1991 年まで 自由なワイン販売は許されなかった』
ワイン造りが許可される 1991 年まで、彼等はいちじく、モモ、さくらんぼ、オリーヴ等の栽培で生計を立てて きたのだそう。 葡萄栽培自体は古くから盛んだった。しかし、イタリア より遅れて農薬が推奨されたこともあり、今でも 90% を超える畑は農薬で汚染されている。
『有機栽培で葡萄を育てている造り手は知る限りで 3 軒しか存在しない。国営のワイナリーも残念ながら 農薬で汚染されている』
ワイナリーではなく農家
「クリネッツ」は 1918 年設立。現在の当主アレクスが 5 代目。弟のウルス、奥さんシモーナと共に野菜栽 培、豚の飼育、それらを使った料理を提供するトラッ トリアの経営。そしてワイン造りを行っている。
『ワイン造りは生活の一部。トラットリアで提供する為 に始めたもの。豚の飼育も野菜も完全無農薬。自 分達が食べたい、飲みたいものを造る』
畑はメダーナ周辺に 6ha を所有。家族だけで管理で きる範囲に抑えている。ワイナリーというよりも農家で 野菜の畑と混在している。
『次世代に健康な畑と周辺の環境を残していくこと が最重要。自分達の野菜や葡萄樹でコンポストを作 り、それを土に戻していく』
化学薬品は一切使用しない。ビオディナミでもベト病 対策として使われる銅すら使用しない。
『天然硫黄、香草、野菜から抽出したもの。海草、石英、乳清、青石、ヴィネガーのみ。ホルモン剤さえ も使用しない』
ベト病にはのこぎり草、除草にはグレープフルーツの 種から抽出したオイル。ウドンコ病には海草と自然由 来のもの以外使用しない。
辛口ヴェルドゥッツォ
ワイン造りの思想は「ヴァルテル・ムレチニック」や「ス タンコ・ラディコン」、そして「ダリオ・プリンチッチ」等と 近く、彼等の影響を大きく受けている。 だが、その中でもアレクスのワインは独自の進化を遂 げていて、誰の模倣でもない独自の個性が際立って きている。その代表がヴェルドゥッツォ。
『ヴェルドゥッツォはこの地域だけの土着品種。気難 しい品種だが、作付面積を増やし、よりヴェルドゥッ ツォの個性を活かしたワインを造りたい』
病気に弱く、生産量が安定しないので、嫌がられ、年々植え替えられていて今では絶滅危惧品種になったヴェルドゥッツォ。ダリオとスタンコがアレクスのヴェルドゥッツォを絶賛し、醸造のアドバイスをくれたことで、悩んでいたアレクス はヴェルドゥッツォの長期マセラシオン、長期熟成辛 口ワインを造る事を決めた。
『尊敬するベッペ・リナルディがスタンコの 1 周忌の宴会でヴェルドゥッツォを飲み、偉大なワインの要素 を全て持っている。白いバローロだと評した』
発酵は野性酵母のみ。大樽で行い、マセラシオンは 5~30 日間。果皮の状態や発酵温度によって変え ている。
『果皮が柔らかければ短く、硬ければ長く。発酵温 度が低ければ長く、高ければ短くマセラシオン。味を みながら決める』
熟成前に清澄させ、一部の健康な澱のみを残して 色々な大きさの樽で熟成させる。
『この地域ではオーク樽が高価だったので伝統的に チェリー樽、桑の樽、アカシアの樽が使われてきたの で今も同じように使っている』
■ヴェルドゥッツォ 100%ヴェルドゥッツォ。遅摘みした葡萄を 30 日間マ セラシオン。発行中は 1 日 2 回バトナージュ。36 ヶ 月間 500 L のアカシア樽で熟成させた。
『アルコールは 14.5%。凝固なタンニンと綺麗な酸 が口中に長く残る。他のどの品種にも似ていない』
■ガルデリン地品種「リボッラ」「ヴェルドゥッツォ」「マルヴァジア」 「フリウラーノ」のアッサンブラージュ。リボッラは 30 日、 その他の品種は 14 日マセラシオン。アカシア樽をメ インに色々な樽で熟成。