Andre Beaufort アンドレ・ボーフォール
フランス France / Champagne
ナチュラル・シャンパーニュは、ここから始まった
1970年代からビオディナミを導入したパイオニア
温度管理無し、野生酵母とモストの糖分のみで瓶内2次醗酵
❖ビオディナミのパイオニア❖
『60年代のシャンパーニュでは政府主導で農薬が推奨され、農業の効率化、工業化が進められていた。造り手は農薬に農業の未来を期待していたのです』
全ての造り手が農薬に疑いを持っていなかった中、1969年には自然農法を導入したアンドレ・ボーフォール。1971年には全ての農薬の使用を中止してしまいます。
『アンボネイ村の全ての畑は農薬が定期的に撒かれていたので僕達が農薬の散布を止めると周辺の造り手は迷惑がって、皆大反対だったのです』
湿気が多いので霧が発生し、カビが繁殖しやすいシャンパーニュ。今でもボルドーに次いで農薬の使用量が多いと言われます。無農薬の畑は全体の4%という異常な少なさ。
『大手メゾンにとって都合の良い農薬推進による農業改革は、最終消費者に高い品質のワインを届ける事を意識しない葡萄生産農家にとっても都合の良いものでした』
1969年、当主、ジャックは農薬でアレルギーを発症。仕方なく自然農法を導入。1971年には、除草剤、防虫剤も含む全ての農薬の使用を中止せざるを得なかったのです。
『当時、我々と同じように農薬の有毒性に気付き、その使用に疑問を持つ事は不可能でした。キュミエール村のジョルジュ・ラヴァルと僕達、家族だけだったのです』
太陽が少なくても植物的成長を促す化学肥料、湿気を助長する下草を全滅させる除草剤、殺虫剤等、全ての使用を止め、ウドンコ病に有効な硫黄、銅さえも廃止しました。
『天然のハーブや果物の果皮やオイルで防虫や除草を行い、更に自家製のコンポストで土壌の健康状態を改善していくと葡萄樹は厳しい自然環境に対応できるように変化』
更に、ホメオパシー(同素療法)を導入する事で葡萄樹の自己治癒力を高めていきます。5年後には周辺の葡萄畑よりも病気に強く、健全な畑が出来上がったのです。
『農薬で栄養を与え、殺菌して生かされた葡萄樹はエネルギーが無かった。自然と共存し、生き抜いた葡萄はエネルギーに溢れ、畑ごとの個性も強かったのです』
ビオディナミ・シャンパーニュのパイオニアとして知られる彼等の目的は100年後のシャンパーニュも健全な土壌を維持している事。その為に生態系の維持にさえも責任を持っているのです。
❖カリスマ醸造家ジャック❖
アンドレ・ボーフォールの歴史は古く、1933年まで遡ります。当時は無名だったアンボネイ村でアンドレ氏が葡萄栽培農家として独立。当時は葡萄栽培の小作人でした。
『1972年にはジョルジュ・ラヴァルに次いでシャンパーニュで2番目に100%有機栽培の葡萄で造ったシャンパーニュを販売開始しました』
ビオディナミを推し進めた2代目のカリスマ的醸造家ジャック・ボーフォールは歴史に残るシャンパーニュを何度も造り出し、世界を驚かせました。
『葡萄自体が強く、化学で守らずに醸造したシャンパーニュは抜栓後も成長し続けるので抜栓してから1週間経って、更に広がりのある味わいを感じさてくれるのです』
更に、ジャックが拘ったのがドゥミ・セック。自然発酵の結果、自然と糖度が残った場合は除酸をせず、ノン・フィルターで糖度を残したままボトリングします。
『ドゥミ・セックのシャンパーニュが熟成した時、糖分がメイラード反応により変化し旨味が増します。同時にカラメル化も起こり、他のシャンパーニュにはない世界が広がるのです』
ドサージュには蔗糖は使いません。自分達の畑で収穫した葡萄から造った濃縮したモストを蔗糖の代わりに使ってドサージュする事で葡萄本来の甘味を得ています。
ナチュラル・シャンパーニュの門を開き、多くの業績を残したジャックは引退し、アモリーを中心に9人の息子達に引き継がれ、今もジャックの思想が実践されています。
『グラン・クリュ、アンボネイに1.6haとオーブ県ポリジーにも4.5haを所有。更に南仏ナルボンヌの友人のピノ・ノワールを買い付け、スパークリングワインを造っています』
❖100年の古樽❖
完璧に熟した葡萄でしか表現力のあるシャンパーニュは造れないのです。葡萄は7月に繊細さ、アロマを、8月に骨格を得ます。この時期こそが最も大切な時期なのです。
『葉の量を調節し、7月はゆっくり成熟させ、8月に完熟に向かう事で葡萄は完熟しながらもフレッシュな酸を得る事ができる。畑毎の葡萄の状態を見極める事が最も重要』
一般的にはPH10程度で収穫するが、彼等はPH3程度で高い酸度を維持。アルコール発酵後も高い酸度があるので、SO2なしでもワインは酸化から守られる。
『野生酵母のみで温度管理もせずに醗酵させて欠陥のないワインを造るには糖度と酸度のバランスがとれ、腐敗果がなく、健全な葡萄であることが大切』
発酵、熟成は全て500lの古樽で行います。新樽はローストした時にオークが炭化してしまい、その影響でワインのフレッシュさやアロマを消してしまうので使いません。
『1次醗酵終了後、古樽で長く熟成してから2次醗酵。蔗糖は使わず、冷蔵保存したモストの糖分と樽内に住み着いている野生酵母のみで2次醗酵を促す』
培養酵母も足さない自然発酵なので彼等にコントロールする事はできない。醗酵が足りず、ガス圧が低ければ、もう1度、樽に戻し、酵母を繁殖させて再発酵させる事もあります。
『ティラージュからデゴルジュマンまで1本1本、全て手作業で行う事が彼等の拘り。自分達の手作業で出来る範囲の仕事でないと自分達のワインとは言えないのです』