Philippe Pacalet フィリップ・パカレ
フランス France / Bourgogne
ジュール・ショヴェ、マルセル・ラピエールを超えて
マルセル・ラピエールの甥っ子はジュール・ショヴェに学び、ヴァン・ナチュールを更に進化させる。ヴァン・ナチュールでも欠陥がなく醸造由来でないテロワールの味を正確に表現する
ジュール・ショヴェ最後の生徒
『ボジョレーに生まれたエノロジスト、ジュール・ショヴェが科学に頼らないワイン造りを提唱し、オヴェルノア、Chサンタンヌ、そしてマルセル・ラピエールに影響を与えていきます』
ジュール・ショヴェはリヨン大学理学部の生化学研究室で学び、世界で初めてワインを科学的に分析します。ヴァン・ナチュールはここから始まったのです。
『ワインを理解する為には全ての化学。特に生態学と物理学を学ぶ必要があり、ジュール・ショヴェは醸造学の前に、これを学び、ワイン造りを科学で明らかにしたのです』
酸化防止剤さえ使わない自然なワイン造りを可能にする為に、あらゆる科学を学び、自然界の物質と微生物がワインに、どう影響し、変化させるのかを解明したのです。
『ジュール・ショヴェの最後の弟子として5年以上共に暮らし、化学的、物理的なワイン醸造を学び、自然なワイン造りを学び、実践してきたのがフィリップ・パカレ』
オヴェルノアとChサンタンヌから始まり、マルセル・ラピエールが本格的に広めたジュール・ショヴェの教えを最後に最も深く体験したのがフィリップ・パカレだったのです。
『大学卒業後、フィリップはナチュール・プログレに従事し、ローヌでビオロジックを広げる活動に従事。シャトー・ラヤスと出会い、シャトー・ラヤス、その後はルロワでスタージュ』
1991年、故アンリ・フレデリック・ロックに見出され、プリューレ・ロックの醸造責任者に抜擢。ジュール・ショヴェのワイン造りをピノ・ノワールで初めて実践し、成功を収めます。
『10年間でプリューレ・ロックの評価は一気に高まり、酸化防止剤無添加での醸造にも成功。D.R.Cの醸造責任者のオファーもありましたが、それを断り、独立』
2001年、ボーヌの古い醸造所を購入し、フィリップ・パカレとして独立。当初は栽培農家から葡萄を購入して醸造するネゴス的なスタイルでした。
『2007年からは長期賃貸契約で畑の栽培、収穫まで自分達のチームで行うようになります。契約畑は10ha以上。ボジョレー、コート・ロティ、コンドリュウまで広がりました』
ローヌは友人であるエルヴェ・スオーとマチュ・バレーで醸造し、ボーヌで熟成。家族のルーツであるボジョレーでは、2015年にムーラン・ナ・ヴァンに畑を購入しました。
野生酵母の複雑さ
『土地の情報を持った葡萄の個性を発酵という化学反応によって変化させたものがワインであり、土地の個性を感じ取れることがワインだけの特殊性なのです』
土地の情報とは畑の鉱物、微生物を含め、全ての要素から構成されるので、ここに科学的な物質を添加すれば畑の情報は正確にワインに移すことは出来ないのです。
『畑の有機物を増やし、微生物を活性化する事が大切なので、化学薬品は使用できない。天然の硫黄、植物性調剤、マグネシウム、シリスのみを使う』
無農薬の畑では、毎年異なる30種以上の野生酵母が活動し、独自のテロワールを形成。この野生酵母が十分存在すれば添加物なしで健全な発酵が可能なのです。
『野生酵母は、それぞれ活動的になる温度帯が異なるので低温から、自然と温度を上げながら、ゆっくり発酵が進んでいく事で色々な種類の酵母が活躍できる』
人工的な培養酵母は強力なので全ての野生酵母を殺し、単一の酵母での発酵となってしまう。これはワインの情報が全て書き換えられてしまう事を意味します。
『発酵温度が低く、アルコール度数が5%以下の不安定な状態の中でサッカロミセス・セレビシエ属が動き出す前に色々な酵母が活動し、香味や酸等、色々な要素を与える』
その為に、フィリップ・パカレでは100%全房での温度管理なし、培養酵母なしでの発酵で葡萄の果皮に付着した野生酵母のみに拘ります。
重要なのは酸ではない
温暖化の影響で平均気温が高いブルゴーニュ。収穫を早めてリンゴ酸を残し、ブルゴーニュらしいバランスを目指す造り手が多いが、フィリップはこれに賛同しません。
『葡萄は完熟した状態が最も栄養価が高く、多くの要素を蓄える。リンゴ酸が多い、未熟な状態は成長の過程であり、栄養価も低く、味わいを構成する要素も少ない』
酸度は味わいを構成する1つの要素に過ぎず、それだけを優先し、他の要素が未熟であるとしたら、ワインとしての個性は劣ってしまう。葡萄の完熟こそが最も重要なのです。
『酸度が低くなっても完熟を優先。酸度が低くても、少し醸しを長くする事で僅かなタンニンをワインに与え、果実の甘味と反対にある微量の苦みでバランスをとる』
発酵は100%全房でセミ・マセラシオン・カルボニックを採用。モストと梗の間の少しの酸素と梗の酵素が発酵を活発化させ、無駄のないスムーズな発酵を可能にします。
『100%全房での発酵の効果は発酵をスムーズにするだけでなく、梗からの水分が微量のヴェジタルな爽やかさを与え、アルコール度数を約1%下げてくれます』
発酵中のピジャージュは初期に少しだけ行いますが、後期は出来る限り少なくして果皮からの過度な抽出を避けます。ピノ・ノワールの果皮は動かしてはいけません。
『樽熟成中は健全な澱と一緒であればバトナージュは必要ありません。バリックの形状は熟成中のワインの中で、ある程度澱を攪拌させ、酸化からワインを守ります』
熟成初期は少し温度が高い地下セラーに入れ、春先に隣の温度の低いセラーに移す時に樽を転がすので、その1回だけ攪拌されるだけ。熟成中はワインを動かしません。
『栽培、収量まで含め、村名からグラン・クリュまで醸造、熟成は全て同じ。味わいの違いは、まさにテロワールの違いだけ。そうでなければグラン・クリュの価値はありません』
