Antoine Lienhardt アントワンヌ・リエナルト
フランス France / Bourgogne
コート・ド・ニュイ・ヴィラージュの最高峰『コンブランシアン』
元々はドメーヌ・ジョブロのワイン造りを取り入れていたが、「ラングロール」を飲み開眼。自然なワイン造りに回帰。ビオディナミの導入、全房での発酵、バトナージュなし、で最高のコストパフォーマンスを実現。
コート・ド・ニュイ・ヴィラージュ
価格高騰が続くブルゴーニュ。もうブルゴーニュで自然で偉大なワイン。そして価格相応と思えるワインを探すのは諦めた方が良いのかもしれない。
そんなブルゴーニュに2011年新しい造り手が誕生した。「アントワンヌ・リエナルト」。彼のワインからはグラン・クリュの価値が感じられる。
コート・ド・ニュイ・ヴィラージュの中心、コンブランシアンに3代続いたドメーヌ、グイヨ・リエナルトの当主「モーリス」が2011年に引退。
『アルザス出身の甥、アントワンヌが引継ぎ、当時の奥様でドメーヌ・ジョブロの娘ジュリエットとアントワンヌ・リエナルトとして再出発した』
2011年当初はドメーヌ・ジョブロのワイン造りを取り入れ、現代的ブルゴーニュを造っていたが、叔父のワインを理想とする「アントワンヌ」とジュヴロ家の「ジュリエット」は考え方を異にしていく。
『元々リュット・レゾネだったが、離婚を機に、2.4haの所有畑を全てビオディナミに変更。醸造も叔父さんの頃のシンプルなものに戻していく』
「アントワンヌ」はシャンボール・ミュジニーの「アミオ・セルヴェル」を中心にシャブリ、ニュイ・サン・ジョルジュ、更に南アフリカでの経験がある。
『アミオ・セルヴェルでの4年間で畑の格ではなく、テロワールを意識したワイン造り。できるだけ介入しないことで個性を際立たせる事を学んだ』
当初の重く、動きの無い作られた味わいは今では全く感じられない。「アントワンヌ」の理想である叔父のワイン、流動的で生きているワインに変化した。
『畑も4haまで増え、醸造所も改築。現在では妹のエローズと共に総勢5人で畑作業から醸造、販売までを行っている』
ビオディナミとホメオパシー
『ラングロールを飲んで感動した。同時に叔父が造っていたワインを思い出し、自然なワイン造りに回帰することを決意した』
2015年から本格的にビオディナミを導入し、2018ヴィンテージからは全てのワインが「エコセール」認証を取得した。
『畑では一切の化学薬品が排除され、ビオディナミ調剤のみで病害虫対策が行われる。2015年からはトラクターを廃止。馬での耕作に切り替えた』
月の動きに合わせた栽培や醸造はブルゴーニュでは日常的だった。ビオディナミが特別な訳ではない。叔父さんの時代をリスペクトしただけ。
『水晶は光合成を助け、ノコギリソウは硫黄成分のバランスをとる。イラクサは窒素を保持し、カノコソウはリンのバランスを高め土壌を活性化する』
ウドンコ病にはスギナを煮出したお茶を散布したり、ホメオパシー(同毒治療)で対応する。
『人間の介入をできる限り少なくすることで畑の個性が強くなるのだから、畑に過度な変化を与えてはいけない。有機肥料さえも過激すぎる』
更に、できる限り森を残し、アプリコットなど多種類の植物が育つ環境を維持することで生物多様性を確保している。
過度な抽出を避ける
『コンブランシアンは過小評価されている。テロワールのポテンシャルは各村の最上のプルミエ・クリュと同等の価値がある』
表土が30cm程度しかなく石灰岩盤が厚く、地質年代層が重なり合っている。グラン・クリュ、プルミエ・クリュの条件が揃っている。
『石灰岩盤が他の村より厚いのでコンブランシアンは採石場として有名。土壌は痩せいているので収量は必然的に落ちて40hl/haが限界』
元来、痩せた土壌であり葡萄樹は苦しんで生きている。更に、ビオディナミの影響もあり、少ない年では収量は27hl/haにまで減る。
『収量は意図的に減らさない。葡萄樹が生き抜く為に、果実を最良の状態にする為に自ら収量を減らすことで凝縮する』
醸造はシンプル。何故なら収穫された時点で葡萄は表現できる情報が全て揃っているから。何も足す必要はないと考えている。
『年によって30~50%を全房で発酵。マセラシオンは15日程度で、過度な抽出を避けるために果帽をできるだけ刺激しない』
収穫から熟成までは一切酸化防止剤は使用せず、二酸化炭素を利用して酸化から守っている。
『熟成は基本的に新樽を使用せず、2~5年樽を使用。澱との接触は酸化防止が目的でタンパク質の摂取ではないので、できる限り動かさない』
ワインは既に高い完成度に達しているが、自由さ、自然さを失ってはいない。
「オー・ヴィニョット」の強固なタンニン、「レ・プラン・オー・ボワ」の還元的スタイル、「レ・ゼサール」の赤い果実はそれぞれの畑の個性で醸造技術はそれを際立たせる為にのみ使われている。