COS コス
イタリア Italia / Sicilia
チェラスオーロ・ディ・ヴィットリアを作った パイオニア
暑いシチリアでもアンフォラでの自然発酵、熟成を成功させる
畑ではビオディナミとホメオパシーで生命力を高めている
❖ネロ・ダーヴォラとフラッパート❖
シチリア南部、ラグーザ県のイヴレイ山塊と地中海の間の25kmに広がる252haの産地がチェラスオーロ・ディ・ヴィットリアです。海と山に挟まれたシチリアでも珍しい環境。
『アフリカ大陸のチュニジア共和国の首都、チュニスと、ほぼ同じ緯度にあり、気候、土壌、建築、食文化までアフリカの影響を強く受けている』
アラベスク建築で造られた家が連なり、壁には幾何学模様と植物の葉、花などを模倣した図柄を組み合わせて、左右対称の模様。典型的なアラブの風景が残っています。
『ここでは乾燥に強い限られた植物しか生き残れない。アーモンド、サボテン、イナゴマメ。そして葡萄は乾燥に強く、昔からヴィットリアで栽培されてきた』
イヴレイ山塊から海に流れ込むディリッロ川の影響を受け、周辺の地域より、少し冷涼である事。地中に若干でも水分を保持している事で葡萄栽培に特に向いていたのです。
『標高900mを超すイヴレイ山塊が浸食され、堆積した更新世の粘土石灰質(海由来)に川由来の砂質が多く含まれ、水はけが良く、葡萄にとって理想的』
石灰を含む礫とシルト粘土(ローム)質が多い内陸部。コスのあるアカーテ地区は砂質が多く、より水はけが良いので葡萄果実が小さく凝縮すると言われます。
『地中の水分量が多いとフラッパートは水分を多く吸収し、果実が大きくなるスピードが早過ぎて、果皮が裂け、果汁が漏れ出し、カビが繁殖してしまう』
ネロ・ダーヴォラとフラッパート、どちらの品種にとっても理想的なテロワールがヴィットリアでした。だからこそ、この地域ではフラッパートとネロ・ダーヴォラが混植されてきたのです。
『古くからフラッパートとネロ・ダーヴォラが混植されてきたクラシコ地区は、この2品種の理想的テロワールとして特に優れた地域。表土は赤土に覆われている』
この2つの品種の混植はシチリアでは珍しくありませんでしたが、ヴィットリアは特別相性が良く、この2品種での初めてDOCGに認定された産地となりました。
❖アンフォラとセメント❖
チェラスオーロ・ディ・ヴィットリアの中心的役割を果たしているのがコス。ヴィットリアから北に10kmのアカーテ村の東にカンティーナは位置。その周辺に畑を所有しています。
『3人の大学生が興した小さなカンティーナ。1980年、バストナカ地区にあった3.6haの畑を買い取り、僅か1,470本のワインを造ったのが始まり』
ジャンバティスタ・チリア、チリノ・スタノ(今は離脱)、ジュスト・オキピンティの3人がジャンバティスタ家の畑を買い取り始まりました。この3人の頭文字をとってCOSと名付けられました。
『20代の3人によるイタリアで最も若い人が運営するワイナリーでした。当時の最新の醸造を取り入れ、最先端のワイン造りをヴィットリアで始めたのです』
カベルネ・ソーヴィニヨンを植樹して、フランス産バリックを導入。低価格帯のワインしか造っていなかったヴィットリアで高品質ワイン造りを目指したのです。
『1990年代に入ると、ヴィットリアの個性を強調する為にビオディナミに辿り着く。バリックを廃し、セメントタンクを導入し、醸造由来の要素を出来る限り排除していく』
2000年には、シチリアで初めてアンフォラ醗酵、熟成のワインをリリース。この年はチェラスオーロ・ディ・ヴィットリアに認められましたが、2008年にアンフォラは禁止されてしまいます。
『2005年、遂にシチリア初のDOCGワインであるチェラスオーロ・ディ・ヴィットリア・クラシコが認定。コスはこのデノミネーションのパイオニアとなりました』
2007年には本格的にアンフォラでの醸造を開始。バリックを全て廃棄し、150個のアンフォラを導入。長期マセラシオンのピトス・ビアンコの生産も開始されました。
『アンフォラは地上の部屋で地中に埋められている。南北の扉を開けて風を常に通し、自然の温度変化の中で発酵、熟成が行われる事が重要』
発酵中、ワインが吹きこぼれると、そこから酢酸菌が発生し、ワインは数時間でヴィネガーになってしまいます。コスでは1時間おきに冷水でアンフォラの周辺を洗い流しています。
『葡萄樹の生育過程にステンレスは存在しない。葡萄樹が触れるのは土(アンフォラ)石や砂(セメント)と木(木樽)。醸造段階でも同じ環境にしてあげれば優しい』
石灰石と砂質から造られるセメントタンク、土から造られるアンフォラ、木樽で発酵、熟成する事で葡萄はワインに変化した後も、ストレスなく自然の状態でいられるのです。
❖人間を葡萄樹に認めてもらう❖
畑では一切の農薬は不使用。除草剤もホルモン剤すら使用しません。一部の畑では銅、硫黄さえも使用せずに、ホメオパシーとビオディナミ調剤で畑を活性化します。
『葡萄樹は自然の中で他の植物と根を使って交信しています。昆虫や微生物と一緒にいたいのです。人間とも一緒にいたいと思ってもらう事が大切なのです』
ビオディナミを用いて生物多様性を維持する為に森を残し、葡萄以外の植物を植え、昆虫、鳥、蜂といった動植物の数を増やす事が葡萄の生命力を高めるのです。
『下草も刈りません。足で踏み倒すだけ。下草の種類も増えて、野生の豆類や香草が生え、倒され、自然と腐り、土に戻っていく事で土壌は有機物を増やします』
畑には色々なクローンを残しています。違うクローンが混在すると、中には病気に強いクローンもあり、病気で全滅する事もなく、ワイン自体の複雑性も向上するのです。