Girolamo Russo

10 倍に高騰したエトナ

「ベナンティ」によって高品質ワインの産地に産まれ 変わった「エトナ」。今では多くの造り手が進出し、エト ナの価値は一気に向上した。

『エトナの土地は高騰し、土地の値段は 10 年前の 10 倍にまで上がってしまった。今では買うことは不 可能だし、手放す人もいない』

「グラーチ」「マルク・デ・グラッツィア」と人気の造り手 も多いが、今一番人気でワインが全く手に入らないの が「ジローラモ・ルッソ」。

『シャンシス・ロビンソンやワイン・アドヴォゲイトが絶 賛したことで 2015 年に世界的に人気になってしま った。ワインはリリースと同時に完売する』

当主は「ジュゼッペ・ルッソ」。パッシピッシャーロ地区 で代々葡萄栽培を行ってきた葡萄栽培農家の息子 で、この地域の地主でもある。

『エトナが注目されて有能な造り手達が移住し、ワイ ン造りを始めた。この土地で産まれた自分こそエト ナ・ワインを造るべきなのではと考えた』

2003 年、26ha の土地を父親から相続。15ha の葡 萄畑はエトナ北斜面の標高 650~800m に位置。葡 萄栽培農家だったので良い区画を元々所有している のが彼の有利な点になっている。 自分 1 人で管理できるだけの畑を残し、その他の畑 は「パッソピッシャーロ」や「フランク・コーネリッセン」等 優れた造り手に貸している。

黒色火山岩土壌

彼の畑には過去の噴火で流れ出た溶岩の塊が残さ れている。土壌はこの火山岩が時間をかけて風化し、 細かい砂になったものが粘土と混ざったもの。

『火山岩は水はけが良く、PH が低い。葡萄は熟しな がらも酸度を保つことができる。マンガンや鉄が多 いのもエトナの大きな特徴』

シチリアならではの強烈な陽光は北側斜面の為に適 度に制限され、過熟を防いでくれる。南斜面より収穫 は 2 週間程度遅い。

『シチリアは暑いが、エトナ北斜面の夜は寒い。日中 40 度を越しても夜間は 10 度以下まで冷やされる。 この温度差が葡萄にストレスを与える』

適度なストレスは葡萄に生命力を与える。葡萄は生 き抜く為に糖分を蓄え、病気や外敵から守る為にタ ンニンや酸を蓄える。 人間と同じで、少し苦労した葡萄は強く育つ。葡萄樹 はストレスを受けて丈夫になっていく。人間が守れば 守るほど葡萄は弱くなっていく。

『樹齢は 50~100 年。フィロキセラ以前の樹も多く 残っている。収量は 35 キンタル/haと通常の造り手 の半分以下』

凝縮度の高い小粒の葡萄から造られる彼のワインは 圧倒的な濃厚さを持っていて、若いうちは理解しにく いワイン。時間と共にエトナ特有のミネラルや、真っ 直ぐなストラクチャーが出てくる。

フランクとグラッツィア

「ジュゼッペ」は 2003 年にワイン造りを始めるまで大 学の数学教師をしながらピアノ奏者として活躍してい た。ワイン造りは全くの素人だった。

『友人のフランク・コーネリッセンに栽培とワイン造り を教わった。自宅のガレージから始まったワイン造り はピアノと似ていて、感覚が重要だと思った』

醸造技術に頼るのではなく、葡萄の力を最大限引き 出すという「フランク」の考え方に共感し、畑での栽培 方法も変更していく。 有機栽培は勿論だが、葡萄樹に耐性を備えさせて いくことが重要。薬剤を一切使用せずに畑を作り上げ ていった。

『一方でマルク・デ・グラッツィアとも親交が深く、化 学的研究で各クリュを分析、最良の収穫やクローン の剪定を行っている』

ジュゼッペは数学教師でありながらピアノ奏者であっ たように、化学的研究で理想を追求しながら、アーテ ィストのように感覚も大切にしている。

『エトナで産まれて育ったが、ワイン造りの経験で、も っとエトナを理解するべきだと感じている。葡萄は生 命力に溢れる植物でエトナを知っている』

ファーロの独自性

シチリア北東部のメッシーナより更に北、ファーロ生 産エリアの最北、海まで 300m のコントラーダ「ピアノ・ ロッカ」に位置する「エンツァ・ラ・ファウチ」。

『他のシチリアワインとの一番大きな違いである「ノチ ェッラ種」の栽培に最も適した条件を持っているのが この地域と言われる』

海に近いので湿気が多く、斜面も東向きなので一見 すると優れた産地には思えないかもしれないが、湿 気を含んだ冷たい海風が過剰な気温上昇を抑え、 東向き斜面が夕日で葡萄が焼けることを防ぐ。 更に山から吹き降ろす熱い南風「シロッコ」も吹くので 1 年を通して風が吹き抜ける。この風が湿気を乾かし 続けることでファーロは成り立っている。

『海風を直接受ける丘の上で葡萄は海の影響と山 の影響を同時に受ける。ノチェッラがフレッシュさと 上品さを与え、他の地域にはない個性を得る』

1976 年にシチリアで初めて DOC に認定されたファ ーロはメッシーナから近く、人気だったが、今では衰 退し、造り手は最大手「パラーリ」を含め、5 軒しか存 在しない小さな産地になってしまった。 強すぎる風が新芽を折ったり、湿気によるカビ対策な ど毎日の手作業が必要な、厳しい産地なので造り手 は減ってしまったが独自のテロワールがある。

『トゥーフォ土壌と潮風が葡萄にミネラルを与えてくれ る。このテロワールの特徴を最も強く表現する品種 がノチェッラとネレッロ・マスカレーゼ』

ファーロは法規制上、ネレッロ・マスカレーゼが 45~ 60%、ネレッロ・カプッチョが 15~30%。その他品種 が 25%までブレンドできる。

『エンツァ・ラ・ファウチでは 15%ノチェッラと 10%ネ ロ・ダーヴォラを加えることでファーロらしさを最大限 に表現している』

ノチェッラはファーロにしかない品種。果皮が薄い為、 カビや病気に弱いので生産量が安定しない。しかし、 果皮に含まれる香成分が多く、酸とミネラルが豊富 なのでワインに上品さを与える。 ネロ・ダーヴォラは不安定なノチェッラと反対に毎年 安定した糖度を得られるので 10%加えることで最適 な糖度バランスを得ている。

グラーチ、G.ルッソと同じ醸造家

当主「エンツァ」はシチリア唯一の高品質グラッパ蒸 留所「ジョヴィ」の娘で大学卒業後、ジョヴィで葡萄の 買取りを担当していた。 品質の高いヴィナッチャを手に入れる為に造り手を 訪問しているうちにワインに興味を持ち、醸造学校に 入学してしまう。

『卒業後、2003 年にファーロの森を開墾し、葡萄を 植樹。元々森だったので 1度も薬品が使われていな い。今でも少量の銅と硫黄のみ使用する』

当初、醸造は「ベナンティ」に相談しながら自分で行 っていたが、よりファーロの個性を表現する為に「エミ リアーノ・ファルシーニ」を醸造責任者とした。

『エミリアーノはグラーチやジュゼッペ・ルッソの醸造 も担当するシチリアワインの専門家。土地の個性を 活かすワイン造りが特徴』

2007 年に「ベナンティ」に助けてもらいながら初めて ボトリング。2009年にはファーロ DOCとして正式に販 売を開始した。

『開墾する前は森。今も畑は 3方向を森に囲まれ、1 方向は海に向かって開けている。葡萄だけでない植 物、昆虫、動物が存在することが重要』

畑は 1 枚畑で森の中。他の造り手の畑とも面してい ないので一切の化学薬品の影響はない。2~3 年に 1 度のペースで植物性のコンポストを撒くが、それ以 外は銅と硫黄のみ。

アッサンブラージュが重要

『土壌はチョークと砂を含む粘土質で、ところどころ に「ミカ・ドラータ」と呼ばれるシスト状の岩が含まれ ている。これが鉄分を与える』

この種の土壌は痩せているので植樹したての若い樹 は灌漑しないと死んでしまうくらい水はけが良い。

『醸造は畑の隣にある醸造所で行う。全ての葡萄は 手作業で収穫され、黒葡萄は大型のプラスチック製 の桶に入れて足で潰して自然酵母で発酵』

一切酵母や蔗糖、酸も足さない。品種毎に分けて収 穫し、発酵。別々に熟成させている。

『できるだけ小さい単位で熟成させることで色々な 個性を持つベースワインができる。それをアッサンブ ラージュすることで複雑味を得る』

熟成は「ファロ・テッラ・ディ・ヴェント」で 12 ヶ月。「フ ァロ・オブリ」で 18 ヶ月。どちらもベナンティ等で使わ れた古樽のみ。新樽は使わない。

■Terre Siciliane Bianco “Case Bianche” 所有畑の中で砂質が強い区画に植えられた「ジビッ ボ」を 100%使用したキュヴェ。収穫後、6 度で 18 時間果皮も種子も残してマセラシオン。 自然酵母のみで発酵。3 ヶ月古バリック、3 ヶ月ステ ンレスタンクで熟成。

『ファーロでは珍しいジビッボだが、甘いだけでなく、 ファーロらしいミネラル感をワインに与えてくれるので エキゾチックで個性的』

シチリアワインは不味かった

世界 NO.1 レストラン「ノーマ」のグラスワインにシチリ アから始めて選ばれたのは「ラモレスカ」だった。彼の ワインはイタリア国内よりフランス、ベルギーから人気 となっていった。 シチリアの中心。乾燥が激しくアフリカ大陸と近い厳し い環境の「サン・ミケーレ・ディ・ガンツァリア」。葡萄畑 は稀でオリーヴ、サボテン、小麦の栽培が主。

『2000 年に葡萄畑と 46 本の 100 年以上の樹齢 のオリーヴの樹を購入。このオリーヴが古代品種モレ スカ種だったのでラモレスカと名付けた』

標高 430m カタニア県とエンナ県の境界に位置する サン・ミケーレ・ディ・ガンザリアのコントラーダ「ジリオ ット」に位置。

『石灰分の強い白い土壌で樹齢が高い。仕立はア ルベレッロ。シチリア特有の乾いた風がいつも通る 一部の品種にとっては理想の土地』

この地域は暑く、非常に乾燥しているので栽培できる 品種が限られている。

『乾燥に耐えられる品種としてヴェルメンティーノ。ネ ロ・ダーヴォラ、グルナッシュ、フラッパート。はを残せ る葡萄なので選んだ』

「フィリッポ・リッツォ」はベルギーでイタリア料理店を 13 年間経営していた。ワインが人気の店だったがシ チリアワインは扱っていなかった。

『当時、シチリアに高品質なワインは無かった。ベル ギーでインポーターをしていたフランク・コーネリッセ ンと出会いシチリアに興味を持った』

フランク・コーネリッセンに委託

2005 年、シラクーサ、パッキーノの葡萄畑を購入し た。この畑の葡萄の醸造をエトナに移住していた「フ ランク」が行うことになった。 2005 年は「フランク」のカンティーナで醸造・ボトリン グが行われた。しかし 2006 年、「フランク」は自分の 畑を買い足し、自分のワイン造りに没頭していくことに なって手が回らなくなる。

『石灰分が強い白い土の畑 0.85ha を購入し、フラ ンクに醸造を頼んだが、距離もあったし、フランクも 忙しかったので上手くいかなかった』

元々は自分のレストランで提供するワインを造るつも りだったが、ベルギーのレストランを売却。シチリアに 移住して自らワイン造りを始めてしまう。 畑は完全有機栽培。自然環境を守り残していくこと が重要だと考えている。 ウドンコ病が出た場合のみボルドー液を使用するが、 多くても年に 3 回程度。収穫の 3 ヶ月前からは絶対 に使用しない。

『土壌のバクテリアを活性化させることが重要。窒素 が豊富な土壌にはミミズが生息する。ミミズが地中 に酸素を供給してくれることで、自然と土壌は豊か になっていく』

彼等は有機肥料も使用しない。糞などの動物性の肥 料も使用せず、下草と葡萄の枝を土に返すこと、豆 類を植えて窒素を供給することだけで土壌を活性化 させている。

毎日飲める軽快なワインに

醸造所はシンプル。発酵槽はファイバー樹脂製の大 きなバケツのようなものを使う。

『発酵容器は何でも良い。素材は関係ない。温度管 理はしない。その年の酵母によって温度の上がり方 も異なるのだから』

酵母は野生酵母のみ。発酵が終わったら熟成用の 容器に移すが、大樽、古バリック、セメントタンク、ファ イバー樹脂タンクの併用。

『昔は長いマセラシオンをしていたが品種の香や味 わいの個性が隠れてしまうので白ワインで 2 日。赤 ワインでは 30 日まで短縮した』

最近の「フィリッポ」のワインは軽やかさが出ていて、 飲み疲れない味わいに変化している。

『以前は収穫が遅過ぎたし、マセラシオンは長過ぎ た。重いワインだったので毎日飲みたいものではな かった。今のワインは毎日飲みたい』

ラングロールに刺激された

南部ローヌの主役はシャトーヌッフ・デュ・パプ。タヴ ェルとリラックは有名なだけで内容の無い商業的ワイ ン産地に成り下がっていた。

『タヴェルに足りなかったのはテロワールでも天候で もなく、造り手の情熱だった。ラングロールの成功で そう気付かされた』

退屈なタヴェル・ロゼを変えたのが「ラングロール」。 自由で自然なワイン造りで圧倒的美味しさをタヴェ ルから発信。世界中で人気となった。

『ラングロールから1本道を挟んだ所に位置するの が「バラジウ・デ・ヴォシェール」。現当主はクリスチャ ン、ナディアの仲良し夫婦』

クリスチャンの義父「バラジウ」が 1986 年に「シュマ ン・デ・ヴォシェール」に創業した農家で、野菜の栽 培が主だが、少しの葡萄畑も持っていた。

『地元農家のクリスチャンとアルジェリア北部を拠点 とするベルベル人でカビル族出身のナディアと結婚 し、2007 年からワイン造りを始めた』

元サッカー選手ジネディーヌ・ジダンもカビル族出身。 アルジェリアはワイン造りが盛んで工業的でない、自 然なワイン造りが今も行われている。 農家的で穏やかなクリスチャンが葡萄も含めた畑作 業を担当。反対に、いつも元気で積極的なナディア がワイン醸造を担当している。

『醸造学校には通わず、自然と身に付いたワイン造 りを実践しながら、タヴェルに合ったビオディナミを 独学で勉強し取り入れている』

義理の父親から相続した畑はタヴェルとリラックに合 わせて 1ha。平均樹齢は 90 年で 7 種類の葡萄品 種が混植されている。

『南ローヌの田舎の農園は伝統的にグルナッシュ、 サンソー、シラー、ムールヴェードル等を混植してい た。今では非常に珍しい』

タヴェルの商業的ワイン造りとは無縁の田舎の農家 の葡萄畑。シャトーヌッフやジゴンダスでは見つける ことのできない自然な畑が残っている。

樹齢90年混植混醸

2007 年からワイン造りを開始するが、AOC の規制 に従いながら、最小限の農薬を使って造っていた自 分達のワインに納得できず、中断してしまう。

『2011 年からビオディナミを導入し、一切の農薬の 使用を中止。ワイン醸造でも亜硫酸も含め何も加 えないように変更された』

ビオディナミ調剤やコンポストも自分達で造る。購入 することはなく、信用できる友人の家畜の糞や野菜、 ハーブを使っている。 全ての畑は混植でゴブレ仕立て。通常のゴブレとは 異なり、枝は地を這う様に自由に伸ばされているの で機械は入れない。

『伸びたい方向に伸びるのが理想。生産性の為に 強制するのは自然な葡萄樹とは言えない。葡萄樹 は自然な状態で最もその個性を発揮する』

タヴェル南部は重い粘土質だが、彼等の畑が位置 する北部の土壌はシャトーヌッフと似ていてガレ、粘 土石灰質、砂質が複雑に入り組んでいる。

『シャトーヌッフ同様に色々な土壌と混植された葡 萄品種がワインに複雑さを与えてくれる。ドリンカブ ルなだけのロゼは造らない』

酸化防止剤完全無添加

ワイン造りも至ってシンプル。手作業で収穫した葡萄 はコンテナを改造した冷蔵庫に入れて冷却。

『収穫した葡萄を 6 度で冷やすことでハサミムシが 出てくるのと発酵温度を低くすることでワインはフレ ッシュさと香を手に入れる』

冷やすことで酸化も抑えられる。1 日冷やした白葡 萄はバスケットプレスで圧搾してステンレスタンクで 全ての品種を一緒に発酵。 赤品種は全房のままステンレスタンクに投入。セミ・ マセラシオンカルボニックででマセラシオン 3~4 週 間。そのまま 1 年間熟成させる。

『醸造中、亜硫酸は一切使用しない。梗に含まれる 酵素と天然のタンニン。そして発酵由来の二酸化 炭素を活用して酸化防止する』

二酸化炭素や窒素も使用せず、酸素と触れ合うこ とが多い状態でのワイン造り。白品種はバスケットプ レスで一時的に酸化されている。

『果汁段階から酸素を経験することで酸化から強く なる。色調は少し濁るが、酸化に抵抗力を持ったワ インが出来上がる』

年産 10,000 本のワインは収穫からボトリングまで一 切の酸化防止剤を添加しない。ノン・フィルター。

スタンコ・ラディコンに学んだ

世界的にも「オレンジワイン」として人気となった「コッ リオ」。有名生産者が揃うが「ダリオ・プリンチッチ」の ワインはその中でも個性的。 「ヨスコ・グラヴネル」の親友であり、「スタンコ・ラディ コン」やラ・カステッラーダの「ニーコ」とは同級生。仲 良しの造り手達は歴代ワイン造りの家系。 「ダリオ・プリンチッチ」は違った。若い頃は近隣のレ ストランやホテルに食材や「グラヴネル」「ラディコン」 のワインを卸す仕事をしていた。

『サラミ、チーズ、ワイン。地元の職人による美味し いものだけを扱っていた。美味しいものを知ること はワイン造りで最も大切』

友人の造り手達のワインが人気になっていく中、ワイ ン造りへの情熱を抑えられず、1993 年にワイン造り を開始する。

『栽培、醸造の技術的なことの多くはスタンコ・ラデ ィコンから教わった。彼のワインが一番好きだったし、 一番シンプルだったから』

コッリオの人気生産者の中で最も歴史の浅い造り手 だが独特の個性で今や大人気となっている。

マセラシオンは短く変更

10 年間ワインは全く売れなかった。「ラディコン」や 「ラ・カステッラーダ」、「グラヴネル」が世界的に注 目を集める中、彼等は経営するバールで自分のワイ ンを販売していた。

『ダリオ・ビアンコとロッソは余ったワインをブレンドし たもので、元々自分の店で提供していた』

彼等のワ インを早くから理解し、応援してくれた日本の為に閉 店した今でも日本とベルギーの為にダリオ・ビアンコ とロッソを造り続けている。 2004 年、自然なワインの造り手達が開催している試 飲会「ヴィッラ・ファヴォリータ」で「ビアンコ・トレベツ」 が注目を集める。

『トレベツはマセラシオンをした白ワインなのに華や かで女性的。他の造り手のワインと比べて全く違っ た個性を持っていた』

彼等のワインはマセラシオンをしても、果実のピュア さやジューシーさが残っていてシリアスすぎない。 飲み手を楽しくさせる美味しさがある。最近のダリオ のワインは更に軽やかさが増している。

『マセラシオンを少し短くして品種個性を感じられる ようにした。昔の自分のワインは重すぎた。華やか で楽に飲めるワインが理想』

ワイン造りはスタンコ・ラディコンに教わった。しかし、 ラディコンとは全く違うワイン。ダリオの人柄を表すよ うにチャーミングで近寄りやすい。

『スタンコのワインは大柄で屈強な男という感じ。僕 等のワインは柔らかい女性のようなワイン。人がワ インを造るから』

軽やかさと旨みの両立

畑は「コッリオ」の丘の中腹、自宅周辺に所有。20 年以上、一切化学薬品を使用していない。

『3 年に 1 回程度堆肥を撒く位で何もしなくて大丈 夫。下草と葡萄枝が肥料になる』

この地域特有の「ポンカ」と呼ばれる石灰岩が特徴。 白亜紀初期~第三紀漸新世の泥岩や粘土土壌。 「コッリ・オリエンタリ・フリウリ」よりも古い土壌。 醸造はシンプル。収穫した葡萄は木製の開放発酵 桶に投入。自然酵母のみで発酵。区画毎に分けて 発酵させる。 温度管理はしない。発酵温度が 32 度を超えるよう ならば冷房をかけて対応。マセラシオンは果皮の状 態を見ながら調整。

『暑く完熟した素晴らしい年、2011 年のリボッラで 2 週間のマセラシオン。熟度の悪い年はえぐみが出 るので短めにする』

熟成は古い木樽。フィルタリング、清澄も行わない。 ワインが良い状態になったらアッサンブラージュして ボトリング。 この時に極少量(20mg/L 程度)SO2 を添加する。

ドメーヌに近いネゴシアン

ブルゴーニュの多くの造り手が「フレデリック・マニャ ン」の成功を羨んでいる。同時に近年のワインの大き な変化に驚いている。 1 代でドメーヌを築き上げたシャブリの重鎮「ジャン・ マルク・ブロカール」も「フレデリック」の仕事と情熱を 絶賛している。

『昔のヴィニュロン以上に畑で働く。だから彼はいつ も日焼けしている。一時期悩んでいたようだが今は 焦点が定まったね。ワインを飲めば解る』

「フレデリック」は全てのブルゴーニュの畑、区画、そ して所有者まで知っている。毎日、畑に出て自分の 足で条件に合った畑を探し出し、所有者と交渉する ということを 10 年以上繰り返してきたから。 彼等は畑の所有者から委託を受け、栽培チームを 派遣し畑の管理を全て自分達で行う新しい形のネ ゴシアン。書類上はネゴシアンだがドメーヌと変わり ない仕事をしている。

『栽培責任者はルロワにビオディナミを導入した人 で 30 年以上ルロワの栽培を指揮してきた。より繊 細で果実のピュアな部分を重視したワインに進化し ていきたい』

ネゴシアンとして土壌を表現するためには従来の葡 萄買いや樽買いでは不可能。栽培から関わり、理想 の葡萄を育て、理想のタイミングで収穫することがで きなければ理想のワインはできないのだ。

ヴィラージュ・ワインが進化

土壌の表現に拘る「フレデリック」。100 年前に決め られた AOC には納得していないようで、その枠に収 まらない取組も始めた。 鉄の多い畑から造ったワインに「クール・ド・フェ―ル (鉄)」。石の多い畑を合わせたワインに「クール・ド・ロ ッシュ(石)」。そして、粘土の強い畑のワインには「ク ール・ダルジール(粘土)」と表記したのだ。

『ヴィラージュ・ワインを造る時、村の個性以上に各 畑の土壌の個性が勝ることがある。それならばその 事実を表記するべきだと思った』

畑を選ぶ時に土壌と樹齢を最も重視している。

『ヴィラージュ・ワインでも最低 40 年の樹齢が条件。 土壌の個性を表現するにはある程度根を伸ばす必 要もあるし、樹勢を落とし、樹中の水分量を減らさ なければならない』

 

D.R.Cよりルロワ

10年以上前から有機栽培を取り入れ、太陰有機法 に従った栽培や醸造を行ってきた。最近の「フレデリ ック」はより自然で人為的介入を少なくする方向に 向かっている。

『D.R.C よりルロワが好きだ。1 点の汚れもない完 璧に整理整頓されたワインよりも、欠点があっても 伸びやかで定規で測れないワインが好き』

通常、春に葡萄房が形成され始めるとツルの先端 を切り落とし、ツルを伸ばす為に使う養分を葡萄房 に使わせるようにする。葡萄の生育を促す栽培法で ほぼ全ての造り手が導入している。

『春の摘芯もやめた。養分の分配は葡萄樹が自分でやる。人間がやるべきではないし、ツルを切られ ることのストレスの方が大きい』

ワイン造りは造り手の趣向やトレンドを極力排除した 自然な形でありたい。醸造はグラン・クリュもACブル ゴーニュも基本的に変わらない。

ジャー(アンフォラ)熟成

日本に初めて「フレデリック」のワインが紹介されたの は「バレル・セレクション」という手法だった。インポー ターが樽買いし日本国内で流通させた。

『当時の日本の流行でもあったのか日本は新樽 100%しか買わなかった。実際は新樽の比率は当 時でも 50%以下だった』

日本に最初に紹介された「フレデリック・マニャン」は 新樽 100%のみだったので彼のワインに今でも樽の イメージを持つ人も多い。 加えて2002年まではノン・フィルターで少し濁ってい たし、収穫も今より遅く、今より少し過熟だった。そし て、マセラシオンも長かった。 ここ数年で「フレデリック」の評価は一気に高まってい る。2000 年代前半まではワインに悩みが現れてい たように思う。通過点だったのかもしれない。

『ジャー(アンフォラ)での熟成も開始。スペイン製の 薄い素焼きの甕での熟成により、水分が少し蒸発 し、若干凝縮する』

内側を蜜蝋で焼き固めていないジャーを使用。香 成分や水に溶ける成分は何も無いのでバリックのよ うにタンニンや香をワインに与えない。

『葡萄そのものの個性を出してくれるが、現段階で は、単体では複雑味に欠けると判断。バリック熟成 のワインとのアッサンブラージュでバランスをとる』

2012 年版ベタンヌ・ドゥソーヴではネゴシアンとして 最高評価の BD マーク 4 つを獲得し一流のドメーヌ 以上の評価を獲得した。ベタンヌのコメントが印象的 で的確だった。

『フレデリック・マニャンは変わった。他のネゴシアン と区別しなくてはいけない。難しい年だった 2008 をとても上品に仕上げ、それが本物だということを 2009 年で証明した。今後も楽しみだ』

仲間の醸造家の葡萄のみ使用

アルザスのヴァン・ナチュールと言えば必ず名前の挙がる「ドメーヌ・ビネール」。古くから無農薬栽培に取り組むドメーヌで現当主の「クリスチャン」の代になって更に注目を集めている。「レ・ビネール」は「クリスチャン」が2010年から始め たネゴシアン。使用する葡萄は自然なワイン造りに取り組んでいる 4 人の友人の葡萄。「クリスチャン」が栽培にも関わりな がら、醸造を担当している。

『ドメーヌ・ビネールと同じ理念で造っているが、土壌も違うし、樹の状態も違うからまた違った個性。ドメ ーヌの畑はリースリングと相性の良い土壌だが、友人達の畑はミュスカやピノ・グリなどフルーツを表現できる畑が多い』

リースリング最適地ビルドストックレ

「レ・ビネール」に使用する畑の多くは「コルマール」の南に位置する。多様な土壌がモザイクのように複雑 に組み合わさるアルザスの中で、この友人の畑は泥灰土を多く含む風化した石灰土壌。この地域は黒い森と呼ばれるドイツのバーデン地方からヴォージュにかけて存在した巨大な山脈の崩落によって出来た地域。 山脈を背後に守られた畑はアルザスの中で最も降 水量が少ない。

『ゲヴェルツトラミネールやピノ・グリと相性が良い。ワインは肉付きが良く若いうちから楽しめる。香も初めから開く。勿論、ドメーヌ同様に全ての畑はビオディナミが導入されている』

また、リースリングに最適の地として多くの造り手の憧 れの畑「ビルドストックレ」も所有。

『ビルドストックレは素晴らしい。小石と泥土を含む質の良い石灰土壌で痩せている。リースリングにとって最高の条件が揃っている。樹齢は40 年』

グラン・クリュ「オーバーモルシュヴィア」の下方で平地に近い所に位置する。グラン・クリュに格付けされてはいないが土壌、真南向きの斜面、風通しの良さ からグラン・クリュ以上のポテンシャルを持つ。

葡萄樹の力を育成する

『ワインは醸造所ではなく畑で造られる。葡萄の生命力がワインを造る。まずは畑からだ』

「クリスチャン」の畑と比べて若樹が多い友人の畑。まだ葡萄樹にそこまで生命力がないので本当の意味での偉大なワインは生まれてこない。

『若い葡萄は果実を表現することはできるが、土壌を表現することはできない。年齢を重ねて初めてできることもある。同時に若い楽しさもある』

仲間の造り手たちからも大人気なのが「クレマン・ゼロ・ドザージュ」。野性酵母のみで発酵、ノン・ドザージュ、SO2 無添加で造られる。僅か2,800 本。

『瓶内2次発酵の際も砂糖や酵母は加えない。その年の葡萄果汁を加えるだけ。葡萄以外のものは一切加えずに造る泡。造ってみたかった』

60年代からビオロジック

『当時アンボネイの僕の畑の隣人は僕が始めたビオ ロジック農法を有害だとして非難した。農薬を多量 に撒き散らす彼等こそが自然の生態系を破壊して いるというのに』

「アンドレ・ボーフォール」2 代目「ジャック・ボーフォー ル」は 1969 年より自然農法を開始。1971 年には一 切の除草剤や化学薬品の使用を中止。

『雨が多いので農薬の使用量がボルドーについで多 いと言われるシャンパーニュ。自然農法の導入は無 理と言われた産地の 1 つだった』

しかし、彼等はこの地に最も早く自然農法を導入する ことに成功した。ビオディナミでも使用が認められてい る銅も土壌に長く残留するので 100 年単位で考えれ ば生態系のバランスを崩すとして使用しない。 コンポストやハーブ、ホメオパシー(同素療法)のみで 畑の手入れをしている。 「アンボネイ」の他にコート・デ・バールの「ポリジィ」に も畑を所有。異なる 2 つの地域で独自のスタイルの シャンパーニュを造っている。

熟度と酸の独特のバランス

『多くの造り手は 8月にバカンスを取るが、僕等は必 ず畑にいる。この時期の葡萄を理解することでワイ ンが決まる。最近は早めに収穫をする事が多いし』

現在は引退した「ジャック」に変わり、3 世代目にあた る 9 人の兄弟が栽培・醸造を担当。父の代から彼等 が最も重視するのが葡萄の熟度レベルと酸の残り具 合。この 2 つがワインの骨格となり、長期熟成を可能 にすると考えている。 その為、他の造り手と全く違う収穫タイミングとなるこ とも多い。

『葡萄の熟度が充分と言えるレベルまで上がったと 判断すれば潜在アルコール度数が低くても、酸度が 下がる前に収穫してしまう。大事なのは糖度ではな い。熟度と酸なのです』

一般的な考え方では PH10 以下で収穫が基本。し かし、彼等は PH3 以下と高い酸度を得ている。 結果的にアルコール発酵、マロラクティック発酵後も 十分な酸がワインに残り、醸造中に SO2 を加えなく てもワインを酸化から守る事ができるのだと言う。

『自然なワイン造りをする為に酸を重視してきた。父 はこの強い酸とバランスを取る為にドザージュを多く していた。 この 10 年で収穫時期を見極め、酸と糖のバランス を取れるようになった。だからドザージュを減らせるよ うになった』

日本ではドゥミ・セックが有名だが、既にフランス国内 ではブリュット・ナチュールの方が人気となっている。

ティラージュ時も酵母添加なし

酸と共に彼等が拘るのが野性酵母のみでの発酵。1 次発酵は長期使用している古木樽で野性酵母のみ によって行う。 大きく違うのは 2 次発酵。通常はティラージュ地に培 養酵母を加えて瓶内で 2 次発酵を行うが、「アンド レ・ボーフォール」ではティラージュ時にも酵母の添 加はしない。

『1 次発酵後にも僅かに残る酵母が活性化していれ ば、瓶内 2 次発酵時は葡萄の濃縮果汁を加えるだ けで自然に発酵が始まる。重要なのは畑で自然酵 母をしっかり育てること』

ヴィンテージによっては自然酵母の働きが弱く、2 次 発酵後もガス圧が 1.2 気圧程にしか上がらない事も ある。(通常 5 気圧以上必要)

『その際は、全てのボトルからワインを木樽にもう 1 度戻し、活発な酵母を選び、移してあげることで全 てのワインを活性化させる。その後、再び少量のティ ラージュをして瓶内 3 次発酵をする』

全て手作業なので大変な仕事。自然酵母のみのワ イン造りは自然との闘いでもある。 年間の生産量は僅か2,500ケース。現在はアンボネ イではなくポリジィに新しい醸造所を建築中。将来的 にはポリジィに全ての機能を移動する予定。